株式会社いっしんが治療家のこだわりを形にしたディスポ鍼I'SSHIN。
いったい、どのようなきっかけで開発が始まり
どのような時をつむいで生まれてきたのか。
これは、たくさんの思いを込めて作り上げた新しいディスポ鍼が
誕生するまでの物語です。
思いがけないお誘い
あるとき、HELIO USAのジェフリ社長とお話をしていたときのこと。
いろいろなお話をする中で、
「日本でHELIO USAの鍼を販売する」という思いがけないアイデアをいただきました。
これまで想像をしたこともなかったビジネスの形。
お話を聞いた時点では、
ワクワクするような、少し不安でもあるような・・・
まだ複雑な心境だったので、ひとことで「YES」と言うことはできませんでした。
そして、「とにかく一度、HELIOの鍼工場を見に来ませんか?」と
ジェフリ社長からお誘いをしていただきました。
HELIO USAは、AcuGlide、Vinco、C&G、D&Dなどのブランドを持ち、
アメリカで長年愛用されている鍼メーカー。
その信頼される鍼の製造過程を、ぜひ一度見てみたいと思い、
「ぜひ、見学させてください。」とジェフリ社長へ返事をしました。
HELIO USA中国工場での決意
中国にあるHELIOの鍼工場を見るにあたっては、
広い視野で確認し、しっかりと判断できるように、
長年の臨床経験と教育経験を持ち、日本の鍼灸学について研究してきた
森 洋平先生にも同行をお願いしました。
そして、、、いざ中国へ!
森先生と飛行機に乗り、数時間で上海浦東空港へ到着。
現地で出迎えてくださったジェフリ社長に連れられ、
さっそくHELIO USAの工場へ向かいました。
工場に着き、さっそく製造過程を見学。
製造過程を見ながら、材料の調達方法や 機械研磨へのこだわり、
安全基準などについて、詳しく説明していただきました。
さすがは、アメリカで長年愛されている鍼メーカーともいうべき、
随所にちりばめられたこだわりに、とても感心。
研磨の形状やカシメの工程、超音波洗浄はもちろん、それぞれの工程での検品などは、
想像を越える細かな基準が設けられていました。
製品についての知識が深まるにつれて、
「この素晴らしい鍼を日本でも取り扱い、治療家に喜んでいただきたい」
という思いも高まっていきました。
そして、「HELIO USAの鍼を日本の鍼灸師に伝えよう!」と、決心したのです。
感激のハプニングと「はじまり」
製造過程の見学が終わると、ある一室に案内されました。
すると、、、
驚いたことに、なんとそこにはHELIO USAの創始者であるリチャード・クウ氏が!
ジェフリ社長のはからいで、リチャード・クウ氏がお時間を作ってくださっていたのです。
あのリチャード・クウ氏とお会いしてお話ができるなんて!
そんな、感激の瞬間でした。
リチャード・クウ氏が口火を切ります。
「今世界のニーズは松葉型の鍼尖だろう」
すると、森先生が切り返します。
「そうとは限らず、伝統的な撚鍼法(ねんしんほう)にも使われている鋭い鍼も、今でもニーズはある!」
それからふたりの会話ははずみ、目の前で熱い“鍼トーク”が繰り広げられていきました。
そして最後に、リチャード・クウ氏から決めのひと言。
「では、そういう鍼を研究してみたいのでアドバイスをくれないか?」
こんなふたりのやりとりを見て思いました。
「かつて、鍼の生産工場でここまでのこだわりを理解し、研究しようという人には巡り合ったことがない!
この人となら一緒に作り上げられる!」
そうです。
いま思うと、中国でのリチャード・クウ氏との出会いこそが、
新しいディスポ鍼の誕生につながる本当の「はじまり」でした。
こうしてHELIOの製品を日本で取り扱う決心をかため、
日本への帰路へ着いたのです。
森先生には、株式会社いっしんのメディカルアドバイザーとして協力いただけることになり、
本格的に日本でのビジネスをイメージしはじめました。
そして、HELIOの鍼製品の個性や良さと同時に、日本の鍼治療の現場について考えていたとき、
頭に浮かんできたのは、中国でのリチャード・クウ氏と森先生の“鍼トーク”。
さまざまな考えをめぐらせているとき、ある思いにたどり着きつきました。
「そうだ。HELIO USAの鍼をただ輸入して販売するだけでは、おもしろくない。
今後の鍼灸鍼の発展にもつながるように、日本の市場に画期的な鍼を創ろう! 」
新しい鍼の企画をスタート
それから、画期的な新しい鍼を作るべく、オリジナル鍼の企画がはじまりました。
さあ、どんな商品を作り上げる?
考えなければならないことが山のようにありました。
まずは、HELIOの商品を徹底的に分析し、個性と良さを研究。
HELIO製品の大きな特徴は、アメリカ製ステンレスを使用しているところ。
医療現場で使用される硬くてしなやかなステンレスで安心・安全をうたっています。
次に、日本の鍼治療の現場でのニーズを的確につかむため、
「鍼の原点回帰」ということで、多くの治療家の声に耳を傾けました。
臨床家、教育者、多種にわたる流派の先生、若手鍼灸師からベテラン鍼灸師までと、
幅広い先生方にご協力いただきました。
私のサポーターのごとく歯に衣を着せない意見を言ってくださる先生方に、
・それぞれのこだわるところ
・市場にある鍼の気に入っているところ
・逆に不満に思うところ
など、徹底的にお話をききました。
このとき集まった貴重なご意見を携えて、
さらにここから「今までにない新しい鍼」を目指し、
製品の細かな仕様を決めていく重要なステップへ突入です。
白熱する開発会議と試作
鍼や鍼管の形状などについて決めるため、中国の工場へも足を運び、
リチャード・クウ氏とディスカッションを重ねました。
ある開発会議の中での一コマ。
リチャード・クウ氏が、機械研磨により生産可能な多種の鍼尖(しんせん)の
見本を見せながら、
日本ならばもちろん「松葉の形状」だと説明し始めました。
リチャード・クウ:「世界の市場は松葉がほとんどだよ。最近は丸いものもある!」
いっしん森(メディカルアドバイザー):「このステンレスの硬さなら、鋭い方が鍼を操作しやすいんです。」
リチャード:「いやいや、松葉だと刺した時血管を破りにくいし。」
いっしん森:「鋭いのが皮膚に引っ掛かりやすいんですよ!」
リチャード:「いやいや、刺しやすいこういうのもある、、、」
と、こんなやりとりが幾度となく繰り返されました。
いろいろな鍼尖、ステンレスの素材と鍼柄とのバランスなどを、
何度も何度も試作し、多くの治療家に試していただきました。
試作品を試すときは、森先生はもちろんのこと、
若手鍼灸師からベテラン鍼灸師までのいろいろな先生に、
自社の治療室内で使っていただき、治療家の立場からの意見を聞きました。
また、実際に私の体を使って試用してもらうことで患者様の立場になり、
「どんな治療を受ければその治療院にもっと行きたくなるか?」などを考え続けました。
鋭い鍼尖
昔の鍼先は、職人さんが1本1本削っていたために、多くは鋭い鍼でした。
一方、近年では、綺麗な松葉の鍼先が世界の主流。
しかし・・・
硬くてしなやかなステンレスだからこそ、
あえてこだわったのは「鋭さ」。
幾度となく試作を繰り返しながら、鋭い鍼のオートメーション化にたどりついたのです。
日本では、一般的に丸みのある鍼尖が好まれ市場を独占しているのが現状。
しかし、鍼灸の歴史を顧みると鋭い鍼尖を用いた刺鍼法も伝統として残っています。
「伝統を受け継ぐ鍼を! 」
いわゆる「伝統を受け継ぐレガシー(遺産)」を再構築するために、
私たちはあえて「鋭い鍼尖」を選択しました。
また、鍼にはさまざまな太さがあります。
より精度の高い鍼の操作を追求するため、
0.12mm~0.30mm各7種の鍼尖に対し、一本一本角度を微調整し、
それぞれの太さに応じた最も良い角度をもった「鋭い鍼尖」を、
何度も改良を重ね開発しました。
太丸鍼管
そしてもう一つの難関は、「鍼管の形状」でした。
こだわりの鍼先が、さらに良いものになるか、残念なものになるかを左右する重要なパーツ。
日本の市場では近年、外径の太いものや六角のもの、八角のものなど、
あらゆる優れたプラスチック鍼管が開発されてきたものの、
昔からのステンレスの鍼管を好む治療家は少なくありません。
そこで、その素晴らしさを少しでも再現したいと考えて試行錯誤し、
厚みのある内径の細い太丸鍼管にたどり着きました。
え、普通⁈
開発を始めて数カ月が経ち、
幾度めかの試作品で太丸鍼管と呼べるものが出来上がった頃のこと。
近日発売の鍼をご紹介している先で、ある先生がお声をかけてくださいました。
先生:「確かに使いやすい太丸鍼管だね?でも松尾さん!これは特別なものじゃなく、普通だよ!」
松尾:「普通⁈ Σ(゚д゚lll) 」
「普通」・・・その言葉が心に刺さりました。
「すでに日本の市場には良い鍼がたくさんある今。
そんな中で新しい鍼を出すのだから普通ではダメだ!」そんな気持ちにさせてくださいました。
そして、再度 金型を作り直し、
出来上がったのが今の鍼管です。
柔らかな当たりの鍼管
最終的に仕上がった「柔らかな当たりの鍼管」。
「鋭い鍼尖」が “すッ”と入るために内経を細くし、
持ちやすくするために外径は太く、
そして鍼管の先は、皮膚への当たりを良く、
まるで「ていしん」を思わせる当たり心地を目指して作りました。
こんな長く険しい道のりを経てようやく、
「鋭い鍼尖」+「柔らかな当たりの鍼管」という、今までに無かった仕様に到達したのです。
日本での検査
HELIO USAの中国の工場での製造においては、
リチャード・クウ氏の厳しい監視の元、厳しい基準で検査も行われていますが、
やはり日本の市場に持ち込む限りは、企業の責任として日本でも検査が必要だと考えました。
中国工場を疑うわけではないですが、自分自身の目で再確認をと思い、
こだわった仕様がどこまで正確にできているか? 安全基準は本当に大丈夫か?
といった点を確認するために、試作品の段階から幾度も日本国内の検査センターにお世話になり検査を重ねています。
これは開発途中だけでなく、販売開始後も継続して行います。
企業の責任として、ユーザー様に安心して使い続けていただくためにも、
工場まかせにするのではなく 定期的な検査は必要だと考えています。
ブランド名はどうする?
ブランド名はどうしよう?
考えはじめると、いろんな名前が頭に浮かんできます。
でもそこはこだわらず、シンプルに行くことにしました。
いっしんの社名の由来にもあるように、
一つの鍼で
一つの心につなげ
一つの新しいものになるように
そんな商品になって欲しいという思いと、
社名『いっしん』が世界で通じるような商品になるようにという希望を合わせ、
英字で I'SSHIN にしました。
意外と悩んだパッケージ
ディスポ鍼I'SSHINのもう一つの特徴であるPOPなパッケージ。
今までにない、治療室が明るくなるようなパッケージにするために悩みました。
近年の鍼灸院はサロンのようにすてきな空間が増えていますが、
鍼のパッケージに関しては “The医療品!”といった感じのものが定番であるのが現状です。
しかし、患者様は治療室の中にいるとき、
自然とワゴンの上にあるものが目に入ってきます。
そう考えると、置いてあるパッケージからも元気を発信したい!と思ったのです。
インターネットを検索してみたり、雑誌をパラパラとめくってみたり、
「明るい」「元気」「アメリカ」などをキーワードにいろいろと考えた結果、
古くからアメリカや日本で愛され、洋服などにも用いられている
格子柄に行き当たりました。
いよいよ量産のステップへ
すべての仕様が決まり、量産できる段階になりました。
思いはたくさん、たくさん込め、
品質管理にも十二分に確認をして生産に入ってもらったけど、
予定通りの物を本当に作ってもらえるのか? 許認可で問題はないのか? など、
心配な気持ちがおさまらず、ジェフリ社長にしつこいほど何度も確認を行いました。
そしてついにむかえた、記念すべき初入荷の日。
まるで図ったように、はりきゅうの日『8月9日』に入荷してきました。
社内にたくさん並ぶ段ボールを見たときの、言い表せない胸の高まり。
かわいいわが子が産まれてきて顔をやっと見せてくれたように、
一生忘れられない、感慨深い日となりました。
ついに販売開始!
こうして、ディスポ鍼I'SSHINがついに誕生。
たくさんの治療家の声、技術者の長年のキャリアにより得た知識、そして施術を受ける患者様への思い、
そのすべてが融合して出来上がりました。
私たちは、この思いが商品と共に
たくさんの治療家の方の元へ届くことを願っています。